「人の居場所なんてね、誰かの胸の中にしかないのよ」 小説「冷静と情熱のあいだ」より引用

アラフォー世代以降の方は、一度は耳にしたことのある「情熱と冷静のあいだ」という小説を、読破されていることを前提条件で、勝手にこれから話に進みたいと思います。

2001年には同タイトルの映画も公開されました。小説では、登場人物の「あおい」がミラノの旧市街、中心部ドゥオーモ(教会)の側にある、「タベルナ、ビスコンティ」というレストランで、トルタ ディ チョコラートを持ち帰りする描写があります。

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(画像はベースのチョコとバター)
 

このタベルナビスコンティというレストランは実在するレストランです。 日本で映画公開された2001年、私もこのレストランで毎晩鍋を振るっておりました。

この店の定番デザートの一つが、小説でも登場する「トルタ、ディ、チョコラート」 です。
今や、このビジュアルも古臭い斜陽のドルチェではありますが、人類にとってはトスカネッリの地球球体説の次に大きな発見、と私、ならびにイタリア人は盲目に信じております。

当店のトルタ デイ チョコラートも、ミラノのタベルナ ビスコンティと同じ作り方でご提供しております。特徴的なのは「粉」を使用しません。通常この手のデザートには「粉」を入れて、草野仁氏のような四角四面な生地を形成しますが、当店のタイプは、ニセコのゲレンデのようにフワフワです。


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先ずは、たっぷりのバターとチョコレートを湯煎で溶かします。


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バターとチョコが溶ける間に卵白と卵黄をしっかり泡立て、溶けたチョコの中に優しく混ぜ合わせます。



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イタリアのデザートに、ザバイオーネという卵黄を泡立てた甘いデザートがあります。ミラノのレストランでこのデザートを作っていると、レストラン経営者の息子(名ルーカ、ウエイター担当、20歳 虚弱体質 、靴下は履いているが人類とはほど遠い生物)が、スプーン片手に厨房に侵入、この泡立てた卵黄を勝手に食い始める。この退廃的な男に迅速にホイッパーで対抗、撃退する私は、もしかしたらミッション インポッシブルの主人公イーサン ハントではあるまいか?と錯覚してしまうほど秒で追っ払う。



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生地が出来上がり、方に流し込めば私の役目はここまでです。この後は、当店焼き物担当の「林内(Rinnai)君 無機質、無表情、稀に突然職場放棄」がオーブンの中で最適に管理された温度をキープし、甘く蠱惑的な香りとともに、新たなプレリュードの予感を知らせてくれます。


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この焼きたての香りと甘い誘惑は、半径5メートル以内に生息する生物のみに与えられる特権です。

ミラノの店でも、このデザートが焼きあがると「ヤツ」が舞い戻ってきます。そう、「ルーカ」です。

何度追っ払ってもハエみたいに戻り、勝手に食い逃げしていきます。

「正義の人」を自負する私は、強い怒気を彼にぶつけると、まるで王国を失った国王のような悲しい顔で「何をそんなに怒ってるんだアミーコ」と全く反省の余地はない。

もうこれは同じ人間としての感性やモラルが、私と彼との間には、地球とイスカンダルの距離位かけ離れているとしか言いようがありません。

イタリアには「ゆっくり歩く者は、長く遠くまで歩くことができる」という諺がある。そう、彼らは常にマイペースだ。もし、いきなりステーキの社長が彼らの仕事ぶりを見たら、椅子からころげ落ちることでしょう。

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はい、トルタ ディ チョコラートの出来上がり。

 人生とは「いつの間にか忘れたもの」でできている。このデザートの中心部分は、「いつの間にか忘れていた甘い誘惑と柔らかな食感」で満たされている。

貴方も一口した瞬間、「今日は、このカロリーの暴力に身をまかせよう」と、きっと思うでしょう。

このデザートの舌で潰せる柔らかさと芯の強い甘味は、老若男女に支持されます。このように、よく噛まないで飲み込む幸せを、人は多幸感と表現します。あ〜っシナプスに響きます。

大人は時々、甘い何かが欲しくなる。

私の「情熱と冷静のあいだ」には、多くの思い出が満ち溢れている。


(あいかわらず更新遅めですが、Instagramは頻繁にUPしておりますので、こちらもよろしくお願いします)